ヘルスリテラシーの観点から考える学校における月経教育のあり方

伊藤 華英 (一般社団法人スポーツを止めるな 代表理事)


山中 恕  (大阪産業大学スポーツ健康学部 助手)


最上 紘太 (一般社団法人スポーツを止めるな 共同代表理事)


小塩 靖崇 (国立精神・神経医療研究センター 研究員)

要約

研究背景:月経は、女性の健康と日常生活に深く関わる生理現象である。月経痛や過度の出血といった状態は、学業成績や運動パフォーマンスに支障をきたす。月経に関する理解が十分でない場合には、適切な対処が難しくなり、健康状態の悪化にもつながり得る。また、月経に対する誤解や偏見は、女性が助けを求めることをためらう原因となり、精神的負担を増大させる。しかし、月経に関する話題は依然としてタブー視されることが多く、正確な知識や適切な対処法が十分に浸透していないのが現状である。学校教育は、若者が月経について正しい知識を得て、自身の健康を管理する力を養う上で重要な役割を果たしている。現在の学校における月経教育は、学習指導要領に基づいて小学校から高等学校まで段階的に実施されているものの、その内容は主に生物学的メカニズムといった機能的ヘルスリテラシーに焦点を当てており、相互作用的および批判的ヘルスリテラシーの観点が欠如していると考えられる。

研究目的:本研究は、月経に関するヘルスリテラシー(menstrual health literacy)*向上のため、学校教育の改善案の提案を目的とする。また、批判的ヘルスリテラシーの向上を目指した授業実践を議論するため,スポーツ界で月経に関する障壁を経験したアスリートのエピソードを活用した教育実践例として「1252プロジェクト」の取り組みを紹介し、社会的偏見の解消と支援的な環境構築に向けた具体案を示す。

方法①文献調査:月経教育プログラムの効果検証を目的とした研究11件をシステマティックレビューに基づいて精査した。各プログラムの実施内容、効果測定方法、対象者の特徴を「機能的ヘルスリテラシー」「相互作用的ヘルスリテラシー」「批判的ヘルスリテラシー」の観点から分類し、その有効性を分析した。

方法②国内事例の分析:1252プロジェクトが高校およびスポーツチームで実施した教育内容を調査し、教育効果や参加者の反応を整理した。特に、アスリートの経験を活用した教育の特徴とその影響を詳細に検討した。

結果①文献調査:11件のすべてにおいて、月経に関する知識向上が確認され、その多くで健康行動への態度改善も見られた。しかし、批判的ヘルスリテラシーを扱うプログラムはほとんど存在しなかった。グループ討論や視覚教材の活用が効果的であり、参加型学習が知識の定着と行動変容を促すことが示唆された。

結果②1252プロジェクトの実践:高校での実践では、元アスリートによる経験談やクイズ形式の参加型授業を通じ、生徒が月経に関する知識を深めるとともに、話し合いや意見交換を通じて社会的な理解を広げる活動を行った。また、スポーツチームでは、選手間の情報共有や指導者との意見交換を促進することで、月経に関するオープンなコミュニケーションの環境を構築した。特に、生徒主導の活動が、月経に関する偏見を軽減し、行動変容につながる可能性が示された。

結果から言えること:日本の学校教育における月経教育は、主に機能的ヘルスリテラシーに重点が置いているが、社会的課題に対処するための相互作用的および批判的ヘルスリテラシーが不足している。本研究では、「1252プロジェクト」を参考にした教育手法を提案し、生徒自身が主体的に月経について学ぶだけでなく、学校全体や地域社会の環境改善を目指す必要性を指摘した。特に、アスリートの経験を活用した教育は、月経に対する偏見を取り除き、性別を問わず全ての人々が月経を理解し支援する社会を構築する有効な手段である。今後は、これらの教育プログラムを実施し、長期的な効果を検証するとともに、学校教育全体におけるヘルスリテラシー向上のための包括的な取り組みが求められる。

*月経に関するヘルスリテラシーとは、月経に関連する情報を入手し、理解し、適切に活用する能力およびスキルを指し、具体的な分類として、以下の三つの領域から構成される。「機能的ヘルスリテラシー:基本的な読み書き能力を基盤とし、健康情報を理解する力」「相互作用的ヘルスリテラシー:周囲の人々とコミュニケーションをとりながら、サポーティブな環境の中で情報を活用し行動する力」「批判的ヘルスリテラシー:情報を分析的に捉え、自らの環境を改善するための社会参加能力」

ヘルスリテラシーの観点から考える学校における月経教育のあり方

伊藤 華英
(一般社団法人スポーツを止めるな 代表理事)


山中 恕
(大阪産業大学スポーツ健康学部)


最上 紘太
(一般社団法人スポーツを止めるな 共同代表理事)


小塩 靖崇
(国立精神・神経医療研究センター 研究員)

要約

月経の健康に関するリテラシーを高めることは、青少年の健康にとって重要ですが、学校のカリキュラムには、このトピックに関する包括的な内容が欠けていることがよくあります。月経困難症などの月経の問題は、学業や運動能力に大きく影響し、より包括的な教育の必要性を浮き彫りにしています。このレビューは、日本の青少年の重要な健康リテラシーに焦点を当て、現在の教育慣行を分析し、統合的なアプローチを提案しています。私たちの文献レビューによると、教育プログラムは機能的リテラシーを向上させるものの、認識や行動を変えるために必要な重要なリテラシーを養うことがしばしば失敗しています。この研究では、インタラクティブなワークショップと、1252プロジェクトからの洞察を含む教育フレームワークを提案し、実体験と専門知識を通じて月経の健康を改善することを目指しています。現在の調査結果では、包括的な月経の健康リテラシーは、青少年の知識と態度を高め、より健康的な行動を促進することが示唆されています。さらに、自信を持ってオープンな議論を促進できるように教育者を訓練することの重要性が強調されています。結論として、学校での月経健康リテラシーへの総合的なアプローチは、思春期の少女と全体的な健康をサポートするために不可欠であり、教育戦略の改善を促します。