部活の未来
アメリカンフットボール日本代表 近江克仁
日本バスケットボール協会スポーツパフォーマンス部会部会長 佐藤晃一
元バレーボール日本代表 横山雅美
スポーツを止めるな代表理事 元ラグビー日本代表 野澤武史
『Stay Lady』ー準備はいいかー。コロナ禍で止まってしまった部活動。再び動き出そうとする今だからこそ考えたい学生アスリートと部活動のあり方に迫るトークセッション。世界のスポーツシーンから得た経験をもとにNBAトレーナーや海外挑戦中のトップアスリート、そして元日本代表選手など多彩な視点から見つめる日本の部活動のあり方について考えました。
変化の真っただ中をいく海外の学生スポーツ。そこから日本は学ぶべきポイントは
海外と日本の学生アスリートを取り巻く環境の違いをテーマにトークはスタート。米国のスポーツシーンをイメージさせる競技のシーズン制が崩壊しつつあることをNBAでのトレーナー経験を持つ佐藤さんが紹介。「よくアメリカの映画でみるような野球とアメフトやっていたりすのが当たり前なのかなと思ってましたが、今はそうじゃないんですね」と野澤もびっくり。米国で単一競技への早期特化が進んでいるそのわけは、そしてその結果どのような問題が起きているかについても教えてくれました。
単一競技への特化が進む理由、それは“スポーツビジネス”の拡大。早く結果を出してプロへと急ぐ傾向が近年見受けられるそうです。その結果、10代など若いうちに精神的に燃え尽きてしまう選手や大けがなどが目立ち始めているとのこと。佐藤さんはNBA選手を対象とした研究事例をもとに、高校生までに複数の競技を経験した選手はアスリート生命が長く、けがも少ないという結果が示されていることを紹介。単一競技への特化が著しい日本のスポーツシーンでもウォーミングアップやレクリエーションに別の競技を取り入れること勧めているそうです。
また佐藤さんからは発達段階に応じたトレーニングの必要性についても解説を頂きました。日本では幼少期の筋力トレーニングは『足が遅くなる』『身長が伸びなくなる』などの誤解が未だにあることに懸念を示し、成長に応じた適切な筋トレを行うことでパフォーマンスの向上はもちろん怪我の予防にもつながることを説明。野澤もラグビーを事例に、ニュージーランド代表オールブラックスのトップコーチは選手が引退した後も良い人生を送れるような体づくりをポイントにしていることを紹介。勝利至上主義を追って過度なトレーニングを強いることに強く「NO」を唱えるとともに、指導者側の知識の向上が必要が欠かせないと語りました。
結果を求めがちな日本の部活動。勝利至上主義の弊害とは
欧州や米国でプロ選手として挑戦を続けるアメリカンフットボール日本代表の近江さんは日本一を目指した大学生活を振り返り、勝利至上主義に陥らないチーム作りを心がけたことを紹介してくれました。
立命館大4年で主将を担った近江さん、チーム作りにあたって『日本一になる』のではなく『日本一にふさわしいチーム』になることを目的としたそうです。人としての成長こそが最大のゴールであり、その過程にあるいくつもの目標の中の一つに日本一というターゲットがあることを選手同士で共有。「勝つだけがすべてじゃない。僕らは学生なので勉学など学生生活もしっかりと充実させる中で目指すべき場所はどこかを議論しました。そして自然と日本一に皆が行きつきました」と当時の思い出を語ってくれました。
元バレーボール日本代表として活躍した横山さんも現役時代を振り返り、勝つことを目標に掲げながらも人間的な成長も常に意識していたことを紹介してくれました。勝ち負けに左右されるのではなく、結果に対する過程の中で自分はどうだったのか、目標に対してどのよううなプロセスが必要なのかを考えたそうです。「目の前の試合を勝たなければならないと思い込んでいる選手もたくさんいると思います。でもその試合を大きな視点で見られるか、それとも小さな視点でしかみられないか。どちらも必要だとは思いますが、難しいポイントですね」と学生アスリートに寄り添う気持ちでアドバイスを送ってくれました。
「勝利至上主義のマイナスの部分は負けた時にすべてがダメだったとなること。でも勝てば良いのかというと必ずしもそうじゃない。別のもっと大事な目標、人間性という部分を常に視野に入れておくことが大切ですね」と佐藤さんも2人の話しに深く頷いていました。
主体的な選択と行動。その先にある自己成長を見据えて
アスリートとして、そして人としての成長を目指す中で大切なのは環境。高校卒業後に4年制大学でも社会人チームでもなく短大への進学を決めた横山さん。「コートの中で経験を積んでいくという選択をとるのであれば今の私が勝負できるところへ行こう」と進路を決めたそうです。その後、社会人チームで活躍する中でもライバル選手との経験差を埋めるため海外挑戦を決断、アゼルバイジャンへと渡りました。『どうしたら自分が成長できるか』。強い思いを胸に常に自らの意志で選択することで得られた成長の価値を教えてくれました。
「強い学校に行って勝ちたいのか、それとも自分が成長できるチームを選ぶのか」。佐藤さんも横山さん同様、選ぶことの大切さを掲げました。強いチームを選べば試合に出るチャンスを得るのは難しい。出場機会を失えば成長機会も減少し、結果として選手としてのキャリアを積むことは叶わない。佐藤さんは「勝負に限らない目標設定という視点から、自分の実力を判断して場所を選択すること。それがまさに主体性だと思います。強いチームを選んだ結果、埋もれてしまうタレントをいっぱい見てきました。それはやっぱり勿体ない」と進路選びの重要性を強調。
野澤も『主体性』をキーワードに掲げ、ユース世代のコーチング経験をもとに学生アスリートと指導者との関わり方を分析。3年間という限られた期間でチームを成長させる部活動は、指導者側が選手たちを枠にはめ込むことである程度の結果を導き出そうとする傾向を強く感じるとのこと。ただ必ずしも個人の成長はその枠に収まるものではなく、選手自身が主体的に動き、考えることで真の成長が得られるものだと野澤は力説。指導のバランスの重要性を語りました。
コロナ禍で成長の秘訣
終わりの見えないコロナ禍、それでも前を向く学生アスリートに向けて3人からメッセージとともにエールを頂きました。近江さんは「Stay Ready!」を掲げ、いつでも試合が出来る心の準備を整えおくことの大切さを伝えてくれました。
佐藤さんからのメッセージは「間違い探し」。間違いに気づくことは少しずつではあるが正解に近づいているということ。それはすなわち成長につながるアクション。間違い探しをすることで物事を乗り切りながら成長を感じてほしいと語りました。
横山さんが思う成長の秘訣は「出来る・出来ないよりも、やる・やらない、が大切」。コロナにより先行きが見通せず、試合が出来るのか、出来ないのかなど自分ではコントロールできないことにどうしても気持ちが向きがちに。そんな時こそ『やる』べきことを自分で選択することが大切であり、その想いこそが成長への第一歩につながることを教えてくれました。
熱い言葉の数々に、野澤も「出てきたいろんなアイディアを大人たちがアクションに変えていくことも大切。ここにいる僕ら4人も責任を持って関わっていきたいですね」と部活動の明るい未来に向けて支援を続けることを誓い、トークセッションを笑顔で終えました。