女子バスケのこれから
元バスケットボール日本代表 中川聴乃
東京羽田ヴィッキーズバスケットボールクラブヘッドコーチ 萩原美樹子
バスケットボール日本代表 本橋菜子
スポーツを止めるな代表理事 元ラグビー日本代表 野澤武史
昨夏の東京オリンピックのヒロインといえば彼女たちと言っても過言ではない。日本バスケットボール史初の銀メダルに輝いた女子バスケットボールチーム。コート上で躍動する彼女たちの姿は多くの人に感動と勇気を与えました。カンファレンスのフィナーレを飾るトークテーマは「女子バスケのこれから」。銀メダリストの本橋菜子さんに加え、女子日本バスケ界を支えてきた元代表選手の中川聴乃さんと萩原美樹子さんをお招きして勝利へのプロセスや秘訣、そして怪我やコロナによる延期などアスリートが直面する壁をどう乗り越えたのかを掘り下げました。
東京オリンピックを振り返る。女子バスケットボールの集大成
「実力通りにメダルをつかめたこと。日本女子バスケは強いんだということを知ってもらえて本当に良かった」。長年に渡り世代別の代表選手育成に関わってきた萩原さんは銀メダルという結果以上に力を出し切った選手たちを称え、誇らしげにそう語りました。現在は解説や競技普及で活躍する中川さんも、長年にわたり手の届く位置にいながらもつかむことができなかったメダルの重さを痛感。「女子バスケってオリンピック出てるの?」と言われた過去を振り返り、今大会を機に多くの人が選手たちの存在を知り、応援の輪が広まったことへの喜びを感じていました。
アメリカとの決勝戦でも大活躍を見せた本橋さんは反響の大きさを日々実感。「やっぱり結果を出せたこと、カタチとして残すことができたことは今後の女子バスケのこれからにつながると思います」と改めて偉業がもたらす好影響に期待。コロナ禍における大会運営に尽力した関係者への感謝の気持ちも含めてオリンピックへの思いを語ってくれました。
女子バスケ躍進の“鍵”は。日本ならではのチーム作り
大会前の世界ランクは10位、決勝を戦ったアメリカとの身長差は10センチ。体格的に劣る日本チームが世界と同等以上に戦えた鍵は何か。萩原さんは選手たちの経験値の高さをその一つとして上げてくれました。大多数の選手が世代別の代表経験を持ち、世界大会で幾度となくベルギーやフランス、中国との試合を経たことで戦い方を学んだこと。その結果、自信とともに戦うメンタリティーが養われたと考察しました。
本橋さんは日本のチーム作りの特徴として長い代表合宿で培われる選手間のつながりを紹介。「一人ひとりのモチベーションが高い。どんな状況だろうと自分の役割をまっとうする選手が集まっていました」と振り返り、長時間を共にする日本独自の合宿スタイルが信頼関係の構築に役立ったことを上げました。
選手を代表合宿へ送る。それは所属チームにとっては戦力ダウンにつながるもの。それでもオリンピックに向けて各チームやリーグ、協会、関係者の多くが“ワンチーム”になったことが躍進のポイントであることも3人のトークから感じられました。
そして忘れてはいけない『あの人』の存在も…。
チームをひとつにまとめたトム・ホーバス元HC(現男子代表HC)の手腕。世界を知る闘将の共通点
「ヘッドコーチから求められる要求がものすごく高い。それに対してそれぞれの選手が人一倍努力する姿を近くで見て勉強になりました」と本橋さん。世界と戦うために何が必要かを見極め、高いレベルを求める指導スタイル。そしてチームにもたらした大きな結果。トークセッションの司会を務める野澤も自ずと『あの人』を連想、それは2015年W杯で強豪・南アフリカから勝利をもたらした元ラグビー日本代表HCのエディー・ジョーンズ氏(現イングランド代表HC)。
萩原さんも「ホーバスさんは長く日本リーグでプレーし、奥様が日本人。エディーさんも日本でコーチングしていた経歴があり、同じく奥様が日本人だったり。日本文化をよく知っていて、どうすれば日本人選手が発奮するのかをよく知っている」と2人の共通点を考察。中川さんは取材などを通してホーバス氏の選手選考を見つめてきた1人として「プレーだけではなく性格や特徴などコート上だけではない部分も含めて細かく見ていたと思いますね」と感じたことを教えてくれました。
大会に向けて過酷さを増す練習、選手たちに芽生えてくる共通の『敵』こそがホーバス氏であったこと。萩原さんは「要求レベルについていくため、みんながひとつになって頑張る。そういうタイプのコーチっていません?」と聞けば、野澤は「それまさにエディーさん」と即答。談笑の中、当事者だった本橋さんは「いつも必死でした」と苦笑いで答えてくれました。
けがとの闘い、大会の延期、見通せない未来に向けた気持ちの整え方
チームの強化も好調を極め、2019年にはアジアカップ優勝。本橋さんは大会MVPに輝きました。そして待ちに待った東京オリンピック、そんな矢先の新型コロナウイルス感染拡大でした。同年の大会は延期、そして本橋さんを大けがが襲いました。冬の強化合宿で右膝前十字靭帯損傷。延期された21年の大会出場も危ぶまれる状態。それでも本橋さんは諦めませんでした。
「大会延期、結構なショックでした。コンデションも上がってきていい感じだっただけに。その後のけがも本当に絶望的で喪失感が高かった」
早大4年時にも同じく右膝前十字靭帯を損傷した本橋さん。本来ならば大学で競技を引退する予定だったそうです。『不完全燃焼は嫌だ』。悔しさからプレー続行を選び、そしてつかんだ代表選手としてのオリンピック出場。「あの時のけががあったから今バスケを続けている。今回もいろんな方のサポートを受ける中で、頑張れば可能性はゼロじゃない。後悔がないように、たとえ結果が伴わなくてもやれることを全部やろう」と気持ちを切り替えたそうです。
念願の出場、そして銀メダル。「すべてのことには意味があるんだなと、けがをきっかけに思えるようになりました」と笑顔で話す本橋さんに、野澤は「点は後に線で結ばれる。大切なのはそう信じられる力なのかもしれませんね」と大きな気づきを得ていました。
コロナ禍での成長。今を生きるアスリートへ
新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の急拡大。夢をあきらめず、目標に向かって頑張ってほしいとの願いを込めて3人からコロナ禍での成長の秘訣を伺いました。
『ピンチはチャンス!』。中川さんは当たり前のことができなくなった今だかこそこれまでの当たり前に感謝しつつ、今、仲間たちと一緒に何ができるだろうかと見つめなおす時間にしてほしいとアドバイス。「苦しんだ経験も後々の人生にとって大きな糧になる。ピンチの時こそ良いことがたくさん見つかると思ってほしい。考えるだけではチャンスは来ない。しっかりと行動してチャンスをつかんでほしい」と学生アスリートへエールを送ってくれました。
萩原さんは『変えられないもの、変えられるものの見極め』を掲げ、自分の努力で変えられるものにフォーカスし、変えられると思ったら勇気をもって変えていくことがコロナ禍での成長を促すヒントになることを教えてくれました。
萩原さんは『変えられないもの、変えられるものの見極め』を掲げ、自分の努力で変えられるものにフォーカスし、変えられると思ったら勇気をもって変えていくことがコロナ禍での成長を促すヒントになることを教えてくれました。
本橋さんは『今 ここ自分!!』。今自分ができることに目を向けて未来を切り開いてほしいと話し、自身も成長を続けていくために今後も『今 ここ自分!!』と唱え続けていくことを宣言。また「支えてくれた人たちへの感謝や苦しんでいる人々へ勇気を届けたいという思いをエネルギーに変えて前に向かってほしい」と熱いメッセージを届けてくれました。
女子バスケのこれから
女子バスケの時代が来てますよ!
もっと注目してもらえるようなプレーを見せたい!
どんどん盛り上げていきたい!
3人のあふれんばかりのエネルギーに野澤も最後はタジタジ、日本のみならず世界が注目する日本女子バスケットボールの明るい未来に期待が膨らむようなトークセッションとなりました。