一般社団法人スポーツを止めるな

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スポーツの力

【出演者】 脳科学者 茂木健一郎 / スポーツを止めるな共同代表理事 元ラグビー日本代表 廣瀬俊朗

カンファレンスのオープニングを飾ったのは脳科学者の茂木健一郎さんとスポーツを止めるな共同代表理事で元ラグビー日本代表キャプテン廣瀬俊朗。

脳科学ではアスリートを分析できない?!

 「自分の限界を超えたときにドーパミンが出て神経細胞の学習が強化されるんですけど。脳科学的にみるとスポーツって、脳科学で研究できる範囲を超えているというのが一番困ったことなんですよ。脳科学で研究できるのは平凡な体の動きの範囲、アスリートはそれを超えていくじゃないですか。脳の働きとしてはありえない。本当にすごいなって」。トークセッションスタートから茂木さんの熱い脳科学トークが炸裂。廣瀬もトップアスリート目線から感じた体と脳の連携などについて経験を語って応戦。学生アスリートに伝えたいスポーツとの向き合い方や視点などについて大いに盛り上がりました。

話題は2021年の夏を盛り上げた東京オリンピックから、メディアの取材者としていくつかの競技場をまわった茂木さんの目に映った五輪とは。

 「国際的なスポーツイベントってめっちゃいいですね。国境も文化も言葉も超えスポーツというプラットフォームで競い合う。勝負の時は真剣に、でも終わればノーサイド。お互いをたたえあう姿に感動した。そこに至る学生スポーツの大切さ。改めてスポーツを止めてはいけないと感じました」。茂木さん自身はスポーツはあまり得意ではないと苦笑い。ただ競技から学ぶことはたくさんあったとのこと。廣瀬も「同じスポーツをやっていたからこそ分かり合える感覚があって、何をやるにも話が早い。仲間意識や生き方においても大切なことを学んだ」と自身の経験を語りました。

HANDS UP プロジェクト: https://spo-tome.com/hands-up/

 またオリンピアンの輝く瞬間を映像で見た茂木さんはその大きな意味とHANDS UP プロジェクトの可能性について考えたそうです。「オリンピックの公式映像はアスリートの一番の晴れの姿を記録しているんですよね。だからアスリートは全力で頑張れる。HANDS UP プロジェクトにおいても廣瀬さんたちのようにアスリート目線でもって本当に伝えたい映像を残したいという想いはあるんじゃないかな」。この問いかけに廣瀬も納得。「自分の頑張りがこういう風に見られているんだとなればそれは次へのモチベーションにつながりますね」と想像を膨らませ、「アングルやどう撮るかなどを工夫すればオンラインでの学生指導にもつながる可能性がありますね」とアイディアを発展させました。茂木さんは廣瀬のオンライン指導の発想に対して「アスリート一人ではたどり着けない部分にコーチングが加わることで広がりをもたらすことができる。そのコーチングの技量を脳科学的に解析するのもおもしろそうだ」とHANDS UP プロジェクトの進化に胸を躍らせていました。

「HANDS UP CAMP」

 スポーツか勉強か、二者択一の世間を茂木さんは疑問視。「スポーツを突き止めた人は大学などでの学びでもその力を大いに発揮していることが多いですよね」とアスリートの有能性を語ると、廣瀬も「スポーツでやってきたことはその後のビジネスや生き方にも汎用されることが多いですね。そんなことを思ってHANDS UP CAMPに取り組んでいます」と活動を紹介しました。
 HANDS UP CAMPは、コロナ禍で失われた合宿をオンラインで実施するまさに脳に汗をかく『知の合宿』。現役トップアスリートやコーチから戦略思考やリーダーシップ、チーム運営を学ぶ濃厚な1泊2日の学びの場。茂木さんは「自分たちでストラテジー(戦略)としてスポーツを分析することがとても大切。クリティカルシンキング、経営戦略、定量分析はこれからのスポーツに欠かせない要素」と学者目線でその有効性を確信していました

ちょっとしたきっかけが学生アスリートの世界を飛躍させる。

 「彼らにとっては忘れられない思い出になったでしょうね」。学生アスリートの気持ちに寄り添う茂木さん。HANDS UP CAMPで講師役を務める各分野のトップランナーからの言葉に子供たちは刺激を受け、自分とその世界がつながる感覚を得ることで競技レベルや生き方にも良い効果をもたらしてくれるのではないかと考察。廣瀬も元ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズ元ヘッドコーチから言われた「プロセスを変えないと結果は変わらない」という言葉を紹介し、小さなきっかけが競技に対する姿勢や人生を含めて大きな変化をもたらすことを伝えた。

2021年8月開催「HANDS UP CAMP」

この先の未来におけるスポーツの価値とは。

 「そうそう今日は学生の皆さんにお伝えしたかったことがありまして」と茂木さんが紹介したのは人工知能(AI)の時代におけるスポーツの可能性でした。計算や統計的な解析はすでにAIで行うことができるものの、未だに運動分野においては超えられない壁があるとのこと。だからこそ人工知能時代において自分の体を動かして何かをやるという価値はますます高まっていくと未来を予想。またアスリートはトレーニングや試合の中で変化を予測する思考が強化されることで感覚的に脳の中で数秒後先の未来を予想すること(Forword Model)に長けていると紹介。廣瀬も「確かに意識はしていないものの、周りの動きや流れを予測していることありますね。それが実生活でも強みになっているように思います」と新たな気づきに大きくうなずいていました。

状況を受け入れ、今できることを。それは飛躍のチャンスになる。

 コロナ禍の学生アスリートに向けて、茂木さんは「脳の立場からするとコロナ禍の中で一番気を付けなければいけないことはストレスをためないこと。自分が努力して頑張ればいいことは頑張れば良いが、社会の状況などによりどうしようもないことは受け入れる。その中でベストを尽くすことでストレスは比較的コントロールしやすくなる。コロナ禍を良い成長の機会だと思って、できることをやっていってほしい」とエールを送りました。廣瀬も「制約の中で学生たちは頑張っている。僕らも大人の枠組みの中で一緒に頑張っていきたいですね」とサポートを約束しました。

 茂木さんはHANDS UP プロジェクトなどの活動に対して、コロナ禍だけではなく今後も大切な活動だとその成長を願うとともに、大会の延期や中止に肩を落とす学生に向けても「自分の足元を深く掘り下げてみよう。そもそも自分は何をやりたいのか、何を目指しているのかを深く掘り下げることでコロナが明けたときにときに一気に飛躍するチャンスになるのでは」とメッセージを送ってくれました。